Vol.4 鍋多光介/Kosuke Nabeta(LA MAISON DU SAKE シェフ)

鍋多光介(LA MAISON DU SAKE シェフ)
Topics
#パリで働く日本人シェフ #日本人の感性を生かすフレンチ #繊細で美しい料理 #ビーガンはヨーロッパで3% #イギリス #東京 #フランス

20歳の頃から食の道を志し、和食、イタリアンを経てフレンチを修行。ヨーロッパに渡り、イギリスで和食の店の立ち上げを手伝った後、現在はパリ2区のレストランで働く鍋多光介さん。端正な佇まいから創造する料理は、日本人の繊細さをもとにヨーロッパの知恵が加わって、ますます研ぎ澄まされています。そんな彼がSEE THE SUNの食材にさらに可能性を与えてくれます。

音楽から料理へ。はまったのは「0から1をつくる」ということ

鍋多さんは、もともと音楽を志す青年でした。

「0から1 をつくることが好きなんです。だから、音楽でも曲をつくることが好きだった」

鍋多光介(LA MAISON DU SAKE シェフ)
【写真】今道しげみ/http://livingphoto.jp/

そんな彼が料理に目覚めたのは、20歳のとき。

「吉祥寺で入った和食屋さんで、料理のすごさにはまりました。そこの親方は、器からつくってしまうような人だった。それで、僕も和食を5年やりました。その後、国内でイタリアンの店にも行って、フランス料理の店にも行って。最後は西麻布のplateTOKYOにいて。友人がイギリスで和食の店を立ち上げるということになって、3ヶ月手伝いに。いったん帰国して、パリのレストランが人を探しているということで、また4ヶ月いて。今、一時帰国していますが、フランスには4~5年は居たいですね」
なぜフランスなのか。そこには「食」に対する考え方の大きな違いがあるようです。

食に対する「熱さ」のなかに居られる幸せ

まず、日本とフランスには食材の違いが大きくあると鍋多さんは言います。

鍋多光介(LA MAISON DU SAKE シェフ)
【写真】今道しげみ/http://livingphoto.jp/

「よい食材が全く違いますね。特にジビエとか。ホロホロ鳥なんて、日本でなんで使うんだろうと思っていたけれど、フランスで食べると美味しいんですよ。バターやチーズといった乳製品もやっぱりそうですね。それに、肉にしても魚にしても、日本に比べると格段に安い。ただ、日本の良いところは流通の確かさ。食材を世界一きれいに扱って運んできます。神経の使いかたの違いが、文化の違いなのでしょう」

ただし、フランスは何よりもお客さんも料理人も、食への熱さが違うそう。

「お客さんも食べることが本当に好きで、料理人と話したがる。料理人は料理をしていないときも、料理の話ばかりしている。みんな自分がこうなりたいという目的をもってパリへ来ているからでしょうね。そういう熱さのなかにいられるのは、とても幸せなことだと思います」。

フランス料理と日本料理は「だしをとる」ところが似ている

和食から入った鍋多さんは、フレンチの勉強を始めたとき、まず「自由だな」と感じたと言います。

「フランスは多民族がいて、いろんな文化を吸収して出来上がってきた国。だから料理の自由度が高い。歴史も伝統もあるのに、さらに発展させていくことができるというか。受け入れる度量の大きさ、懐の深さを感じるのです」

ただ和食とフレンチには大きな共通点がありました。

鍋多光介(LA MAISON DU SAKE シェフ)
【写真】今道しげみ/http://livingphoto.jp/

「和食とフレンチに共通するのは、だし、をすごく使うというところです。あらゆるものでベースのだしをとる。旨味を大事にするところが似ているんです」

和のだしの旨味を知る鍋多さんは、きっとさらに現地でフレンチの幅を広げておられるのでしょう。

ゼンミートはヨーロッパでの需要にぴったり

ヨーロッパではアレルギーも含め、メニューのままの料理を食べられない人がどれくらいいるのでしょうか。

「魚はOKだけど、乳製品はNGとか。イスラム教徒は豚を食べないとか。アレルギーも含め、毎日2~3割の人は、何かしらがNGです。予約で言ってくださったらいいのですが、その場で言われるととても困ります。完全なビーガンの人は
ヨーロッパでは3%だと言われています」

急な対応のために、備える苦労も。

「必ず鶏は余分に置いておくとか、冷凍はしませんが、魚も少し置いておくとか。いろいろ考えています。今回、初めてゼンミートを使わせてもらいましたが、これは乾燥で日持ちもするので、すごくありがたいし、本当に使えると思いました」

鍋多光介(LA MAISON DU SAKE シェフ)
【写真】今道しげみ/http://livingphoto.jp/

鍋多さんが気に入ってくださったのは、その味。

「ゼンミートはただの疑似肉じゃないし、ソイチーズは疑似チーズじゃない。ちゃんと美味しいので、可能性があると思いますよ」

今回考えてくださったレシピはフレンチ風の洋食。

「ソイチーズはつなぎに使ったりしましたが、本当に美味しいですよね。デザートにするには、ポロポロした感じなので、ちょっと工夫がいるかな」

盛り付けにも美しさを追求してくださいました。ゼンミートがあっという間にフレンチに。

生産者もつくる人も食べる人も。みんなが幸せになるシステムを

さて、日本でもフランスでも、料理の世界では近しい悩みがあるようです。

「若い料理人が少なくて、スタッフ不足。だからどうしても長時間労働になります。僕ら30代が上にあがっていったときに、なにかもっと幸せなシステム作りができたらいいなと思うのです。食材も値段はどんどん上がる。高くなると、食べる人は店へ行きづらくなる。そこは生産者と一緒にやっていくことも必要だと思いますし。生産者、つくる人、食べる人。みんながハッピーになれたらいいな」。
幸せな食物連鎖の形は、きっとあるはず。鍋多さんの美しい料理を見ていると、そういう思いが湧いてきます。
料理人としての舞台は世界へと広がっていく様子。

「日本にもいつかは戻ってきたいですが、スペインやニューヨークにも住んでみたい。自由に生きていきたいです」

自由をたくさん身につけて、料理の幅を広げていく鍋多さん。食の未来を明るく照らしていただきたいものです。

鍋多光介(LA MAISON DU SAKE シェフ)
【写真】今道しげみ/http://livingphoto.jp/

鍋多光介さんによるレシピ紹介

【撮影協力】デニオ総合研究所