#オーガニック意識 #オーナーは書家の武田双雲 #元ギタリスト #フォトグラファー #鵠沼海岸 #サンフランシスコ #ヘイトアッシュベリー
鵠沼海岸の駅にほど近い「地球」は、こじんまりした洒落たレストラン。オーナーは書家の武田双雲さんで、食に熱いこだわりをもつ人たちが集まっています。シェフは一見、年齢不詳で謎のイケメン!?…18歳まで日本で育ったエドワード・ヘイムスさんです。唯一無二の経歴をもつアーティスティックな彼の料理は、心にも体にもうれしい絶品揃い。SEE THE SUNのゼンミートやソイチーズは、彼にとって欠かせない食材として愛されています。
アートから料理へのワールドワイドな旅︎
エドワード・ヘイムスさんは、通称・エディさん。
東京に生まれ、18歳まで日本で、それも鵠沼で育ちました。
「まさか、地元に戻ってくるとは思ってもみなかったよ」
そうおっしゃるのもそのはず、ギターでブルースを演奏するのが大好きだったエディさんは、18歳でサンフランシスコのフラワー・ムーブメントの聖地・ヘイトアッシュベリーへ。
「そのままダメなヒッピーになっちゃったら、ヤバイじゃない?(笑)現地では無国籍レストランや寿司屋でも働きました。でも何か勉強したいと思って、NYのアートスクールへ行くことにしたんです。そこでイラストレーションの勉強をして、その後、フォトグラファーとして仕事をするようになりました」
フォトグラファーの仕事は、ひとところに収まらないエディさんの気質にとても合っていたようです。
「そうなんですよ、イラストレーターは1箇所で描いてなきゃいけないでしょ。フォトグラファーなら、カメラもってどこへでも仕事に行けるからね。それで、あちこち行きました。で、バブルのときに日本に呼び戻されたんです」。
食の最前線は、美味しさと健やかさが両立していた
バブル時代の日本の雑誌は、ゴージャスな料理で埋め尽くされていました。
「その頃、ファッションを中心に撮っていましたが、料理の取材も4年くらいやったかな。特にフランスで星のあるレストランやオーベルジュの取材は感動しました。厨房のなかまで見せてもらえるのですから、それは楽しかった。レストランで栽培したハーブや野菜を使っていたり、そういう食材への意識にも影響を受けましたね」
すごいと言われるレストラン、達人と言われるシェフほど、食材にこだわっている。そのとき、エディさんは、サンフランシスコのある店を思い出したのです。
「74年頃に、その後、伝説的なオーガニックフードレストランの草分けになる『シェ・パニース』にも行っていたんですね。まだ有名になる前でゆったり楽しめて、衝撃的な美味しさだった。僕はアリス・ウォーターズという女性シェフがつくるそこの料理を、これはファッションじゃなくて、ちゃんと生活に取り入れるべきだと思いました」
アリス・ウォーターズは、バークレーからオーガニック・マーケットを広めていったことでも有名に。エディさんはそんな彼女の姿を目の当たりにしていたのでした。
家族も必要としていたから、オーガニックの町へ
エディさんの奥様はオーガニックで無農薬の食材しか受け付けない体質。息子さんも生まれ、エディさんたち一家はその生活の流れのままに、ロサンゼルスから北へ上がった「OJAI(オーハイ)」という人口7000人くらいの街で暮らすことに。
「オーハイは、自然にオーガニック・マーケットやそういう店がある町。ハリウッドからそういう意識をもつ人たち、監督やプロデューサーもたくさん住んでいます。がんばらなくても、オーガニックなものを食べることが当たり前。本当はそうあってほしいですよね」。
日本へ帰国する飛行機で運命の出会いが
やがて12年ぶりに日本に戻る飛行機のなかで、運命の出会いがありました。
「たまたま、妻がギャラリーをやっているのですが、機内誌で初めて武田双雲さんのことを知ったのです。これは素晴らしいねという話になり、彼の個展を葉山のギャラリーでプロデュースすることになりました。それが知り合うきっかけ。その後、アメリカでも彼の個展をプロデュースしました。おつきあいしているうちに、いろいろと食に関する思いが通じ合うことに気づき『地球』をオープンすることになったのです」
何料理、とひと言では言えない「エディ料理」が、こうして日本で食通の人々に愛されていくことになったのでした。
日本ではハマりすぎず、バランス良く許容範囲をもって
日本でもオーガニック・フードへの興味は高まっていますが、かえってそこにこだわりすぎるのも弊害があるとエディさんは考えています。
「オーガニック・フード以外は悪、みたいに排他的になっちゃうと怖いでしょう。
それは違うよね。手に入らないものもあるし。だから、今は僕は8対1くらいの割合で普通に手に入る食材も使っています。美味しくて無添加、オーガニックに越したことはないけれどね」
最近は以前に比べ、産地直送などで、無農薬の野菜など、良いものが手に入るようになりました。
「若い人たちが自分で野菜を育ててオーガニック・ファーマーになっていたり、率先して意識を変えようとしているところはすごく良い兆候ですよね。ただ、人口が少なくなっていくから、大変だとは思う。なるべく応援したいですね」
頑張りすぎず、体への健やかさと美味しさを両方大事にしていこうというエディさんの気持ちが伝わってきます。世界中で美味しいものを味わってきた彼の料理は、老若男女、食通の心を弾ませてくれるのです。
エドワードさんによるレシピ紹介
撮影:斉藤 有美/取材、文:森 綾