Vol.8 小出裕之/Hiroyuki Koide(ホテルニューオータニ レストランSATSUKI 料理長)

東京の中心地の一流ホテルで料理をつくるということは、常に世界に通用する至高の食を意識するということなのかもしれません。朝から晩まで活気に満ちたレストランSATSUKIを取り仕切る小出裕之料理長は、伝統的な本物のフランス料理を学びつつ、ヴィーガンやグルテンフリーを意識する現代の人たちの食の傾向も視野に入れている人。「目に見える安心、安全」を優先させたいという料理への心遣いを語っていただきました。

「一皿にデッサンする力」に憧れて

小出裕之料理長が料理の道に入ろうと思ったきっかけは、テレビで日本を代表する料理人のドキュメンタリーを見たことがきっかけでした。

「その方が文化の違うフランスで苦労しながら、日本人としての信念をもって学ばれる姿に感動しました。私もあんなふうに一皿にデッサンする力をもてるようになりたい。私の両親はまったく料理関係者ではありませんし、最初は反対されましたが、どうしても料理の世界に入りたいと思い、渡仏しました」

小出さんが渡仏したとき、日本人シェフは何人かいて評判になっていましたが、まだメインストリームではなかったようです。それはフランス料理自体もまだまだ伝統にとらわれていたからでしょう。

「私が渡仏した当初に向こうのシェフたちに言われていたのは『ソースの旨味はクリームやバターで決まるから、もっと入れたほうがいい』ということでした。塩味もきつかったですね。それからだんだん、ブルゴーニュの名店『La Cote d’or』のベルナール・ロワゾーのようなシェフが出てきて、もっと軽やかなフレンチがあってもいいのではと提唱されるようになっていきました」。

野菜の煮汁もソースになる

フランス料理の味はどんどん軽やかになっていきました。野菜や日本の昆布を使用しただしが使われ始めたのです。
小出さんは言います。

「2008年頃からでしょうか。年配の方を中心に肉を避ける傾向が出てきたように感じました。美味しい肉は食べたいけれども、脂質を無駄に摂取したくないというか。アラン・パッサールという三ツ星レストランのシェフは自分の畑でつくった野菜中心で魚も極力減らしたコースを考えました。日本の昆布のだしもよく使われるようになってきています。昆布のだしは完全なグルテンフリーですからね。野菜の煮汁の美味しさにもみんな気づき始めたけれど、その場合、私たちには、ひとつハードルがありました」

それは大きなホテルならではの悩みでした。大量に同じものを必要とされますから、なかなか地元の生産量の少ない野菜を使うのが難しかったのです。
小出さんは「なんとかならないだろうか」と考えました。

産地に出向き、素材を得てからメニューを決めた

ある休みの日、地元のJAで買った野菜を息子さんに食べさせると「味がある!濃い!」という答えが返ってきました。

「子どもたちってわかるんですよね。美味しかったら野菜嫌いにはならない。だから、そういう野菜がやっぱり必要なのです。それで、産地に出向いてそこのいいものを仕入れて、それからメニューを決めたらどうかと思ったのです」

実際に、SATSUKIでは半年ほど前に朝食のメニューをリニューアル。山梨県の農家と契約し、無農薬で自然な肥料を使ったものを仕入れています。

「無農薬で作る、と私たちは簡単に言いますが、生産する方たちは本当に大変だと思いますよ。だから、生産者を優先的に見て、そこから目配りしていかないといけないと思います。『15センチの人参を何本』という注文の仕方はもう違うでしょうね。生産者が命がけでつくっている我が子のような食材ですから、私たちは無駄なく大切にドレスアップしてお客様にお出ししたいと思っています」

ニュージーランドなど、無農薬にこだわる海外の農家にも注目しているそうです。

食へのこだわりへの細かな対応

国賓を含め、海外からの客人も多いホテルニューオータニ。ここ数年、ヴィーガンやグルテンフリーを求める人が急激に増えているそうです。

「ホテル全体で、常に準備はしています。『オムレツはバターではなくオリーブオイルで作ってほしい』『卵白と野菜のオムレツを作ってほしい』といったオーダーにもお応えしています」

SATSUKIを訪れるお客様は1日1000人を超えます。

「皆様を同じようにもてなすことが大事。我々は人の命を預かっているのです。食べ物は体に取り込まれるのですから。新鮮で、安全で、美味しいものを常に提供したい。私はそれを一生、探求したいです」

情熱のある小出さんは、食の未来のことまで見つめています。

「日本の自給率は30%なのに、廃棄される食材は大量。この食材ロスの問題も、世界中で取り組まないといけません」。

だしや発酵文化とゼンミートの組み合わせが面白い

食を真剣に考えている小出さんに、実際にゼンミートを使ってもらいました。

「以前、別の大豆ミートを食べたときに大豆臭さが嫌だったのですが、ゼンミートはそれがなかったですね。湯で戻さず、乾燥したままトマトの旨味を染み込ませたのもよかったのかもしれません。美味しいし、カロリーが低いというのもメリット。日本のだし、発酵の文化と組み合わせるといろいろと味わいのある料理ができると思います。ソイチーズも、火を入れるとなじみ、普通のチーズと扱いやすさが変わらないので驚きました。和洋折衷問わず、試してみたいです」

和食を欧米の方たちにももっと広めたい。小出さんは、そんな思いももっています。

「味を足し算していくより、引き算して、素材を大事にしていくというのが、和食のよいところ。塩加減、火加減の繊細さも腕の見せどころです。ゼンミートなどを使えば、さらにヘルシーなものが提供できそうですね」

小出さんの料理は、絵のように美しい彩りにもあります。素材への愛情、そのお皿を目の前にする一人ひとりの人への愛情があふれているのです。

小出さんによるレシビ紹介


★ホテルニューオータニ レストラン「SATSUKI」
小出料理長監修の「新・最強の朝食」はこちらから。安全と安心、美味の三位一体となる世界一美味しい朝ごはんです。
https://www.newotani.co.jp/tokyo/restaurant/satsuki/

取材・文:森 綾/撮影:ヒダキトモコ